2011年6月5日日曜日

『ブラック・スワン』がイマイチだった人のために、鏡像段階論を例えて私なりに解説。

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『ブラック・スワン』を先日見て、非常に感動したと書いたが、それはラカンの鏡像段階論を上手く取り入れながら、それを映像化していたという点が大きいと思う。
なので、『ブラック・スワン』のなにがどう面白かったのかを書いてみようと思う。
ネタバレ、というか観た人しか面白くないかもしれないので注意。

  • 鏡像段階論とは
鏡像段階論というのは、ラカンの考えた理論(と言っていいの?)で、めっちゃ簡単に言うと、鏡に写った自分を自分だと認識出来るかみたいな話(微妙に違うかもしれない)。たとえば、動物に鏡を見せると自分だとは思わないで威嚇したりするけど、人間で鏡を見せたときにそれを他人だと思って話しかける人はあんまりいないよね。でも、赤ちゃんに鏡を見せると凄く驚いた反応をして不思議そうに観たりする。だから、人間はどこかの段階で鏡に写った自分が自分であると自己認識するんじゃないか、というのが鏡像段階論(たぶん)。
そもそも、生まれたばかりの乳児にとって世界というのはそんなに分けられたものではなくて、母親と自分の区別もついていないとされている。そもそも、お腹の中に居る赤ちゃんとお母さんはどの段階から別々の存在なの?みたいな疑問も出てくる。ここではそこには触れないでそろそろ映画との関連性について書いてみようと思う。

  • ニナ対他人
ナタリー・ポートマン演じるところの主人公ニナは鏡像段階を十分経ることが出来なかった女性と捉えられるのではないだろうか?と思った。
街中である他人であるはずの女性が自分に見えたり(他人と自分の境目がわからない)、自分で自らの身体を傷つけている事に気がつかなかったり(自分で自分の行動を認識出来ていない)。自分とそれ以外の存在の境目が非常に曖昧になっている。
また、とても強力な母親の存在もあり、彼女はどう考えてもイニシエーションを通過せずに大人になった女性に見える。しかも多分処女。

こう考えると、ニナの分裂した自分が映画のなかに登場するとき(暗いトンネルのシーンなど)、どのような状況であるかを見ると面白い。

  • 鏡とバレエ
そして更にこの映画が面白いな、と思うのは、バレエを題材にしていること。
『ブラック・スワン』はバレエが舞台なので、とにかく鏡張りの部屋や控え室など、鏡が沢山出てくる。特にレッスンルームでのシーンが凄くて、四方が鏡で囲まれているのにカメラは全く鏡の中に写りこんでこない。エンドクレジットを見る限りだとデジタル一眼を駆使して撮影してたらしいので、カメラの小型化と合成技術でこのような不思議な映像を映し出していたのかもしれない。こういう最新技術の使い方は素晴らしい。
また、電車のシーンや母親が書くニナの似顔絵なども出てきて、とにかくあらゆるモノが鏡として機能している。
このように、『ブラック・スワン』のなかでは大量に複製、増殖していくニナと暴走していくニナとが素晴らしいドライブ感とともに加速していく。そもそも、バレエ(というか演劇も映画もだが)そのもの自体が演者/観客の鏡像関係の上に成り立っているとも言える。

というように、『ブラック・スワン』はヴィジュアル的には非常に上手く鏡を用いて、なおかつ脚本的には鏡像段階論を踏まえたような内容になっていると私は思う。


  • ラストシーンについて
最後に、私が号泣したラストシーンについて書いて終わろうと思う。
ラスト、ダンサーして絶頂とも言えるような演技をし、最後のダンスを踊りきったニナが最後に舞台装置から落下して『白鳥の湖』が終わる。頂上まで登ったニナが観客席を見ると、そこにはニナを見つめる母親が座っている。そしてニナは舞台装置から落下し息絶え映画が終わる。

ココで舞台上のニナと観客席の母親は舞台/客席という鏡像関係に落とし込まれ、二人の感情は物語上でまさに絶頂に達する。
ここのシーンを見て「ニナと母親がついに同一化してしまった。」と読むか、「初めてお互いを正面から向き合い、二人が分裂することが出来た」と読むかはその人しだいだろう。
ただどちらととっても面白いし、この映画のラストシーンとしては素晴らしかったと思う。



  • まとめ
言葉や思想を映像化することが出来るのは映画に許されたマジックだと思う。そのマジックを起こすことが出来ている映画が私は好きだ。
それから、
自分も早く両親から自立しなければいけないと思った。

あと、オリジナルの『白鳥の湖』をちゃんと観たい!
舞台で!

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